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アンケートでいじめを予防する取り組み

写真はイメージです(©写真AC

 

学校でのいじめを予防するために、生徒へのアンケート調査を工夫をするという研究を見つけたのでご紹介します。

 

中村孝(2022年)「いじめ予防のための能力・環境尺度作成の試み」

 

一般に、学校で起こるいじめについて、先生が生徒を観察することで見つけることは非常に難しく、アンケート調査で分かることが多いと言われています。本人や保護者が直接訴えてくることもあるようですが、アンケート調査で分かる数の方が多いようです。

 

ただし、アンケート調査で分かるいじめは「既に起こっているいじめ」になります。この研究では、アンケート調査を実施することで、現在もしくは過去のいじめを発見するだけでなく、これから起こり得るいじめを未然に防ぐために、質問項目を工夫することにしたようです。

 

【いじめ予防の能力や環境について調べるための質問】
◆教師サポート
・先生は気持ちを良く分かってくれる
・先生はいじめの解決のために力になると思う
・先生は相談しやすい
・先生はいじめる子の話もしっかり聴いてくれる
・先生はいじめなどをしっかり注意してくれる
・先生は秘密を守ってくれる

◆友人サポート
・自分の気持ちを分かってくれる友だちがいる
・困った時に相談に乗ってくれる友だちがいる
・自分を裏切らない友だちがいる
・笑顔であいさつしてくれる友だちがたくさんいる

◆いじめ対処能力
・いじめる人に何でするのか理由を尋ねられる
・いじめを見かけたら止めるように言える
・いじめを見かけたら先生に伝えることができる
・いじめを見かけたら別の事に注意が向くようにできる
・いじめる理由を聞いて、どうしたらいじめられないですむか一緒に考えられる
・自分の意見を言うことができる

◆価値
・いじめを見て何もしないことはいけないと思う
・親や教師に対して尊敬と感謝の気持ちをもっている
・間違いは素直に認められる
・時と場をわきまえて礼儀正しく真心をもって人と関われる

 

この研究は、実際にこの質問内容でいじめを予防することができたかどうかまでは触れられていません。2022年に発表された内容なので、今、効果を確認している最中かもしれませんね。

 

アンケート調査であれば定期的に何度でも実施できますので、少しでもいじめ予防に効果があるといいですね。

先生が「いじめを許さない」と生徒にはっきり伝えることが大切

写真はイメージです(©写真AC

今回ご紹介するいじめ防止プログラムはこちらです。

中村玲子・越川房子(2014)『中学校におけるいじめ抑止を目的とした心理教育的プログラムの開発とその効果の検討』

 

対象:中学生

実施者:担任、臨床心理士2名

期間:授業1回

方法:
①心理教育(5~10分) → 各担任が実施。
 内容:「いじめを許さない学校づくりの重要性」、「いかなるいじめも絶対に許されるべきではない」
②SSTの技法を取り入れたロールプレイ(25分) → 臨床心理士が実施。
 生徒への事前アンケートにより、無視・悪口・バイ菌扱い等の場面を設定し、
その場に自分がいたらとることができる行動について用紙に記入、ホワイトボードに書き出して発表。
 ※全生徒ではなく学級委員がロールプレイ(事前練習あり)

結果(生徒が用紙に書いた内容を分類):
①いじめにどう対応するか(『いじめに対する自己効力感』)
 ・いじめ介入行動
→ 「支持行動」(なぐさめる、そばにいる)、「仲裁行動」(やめるように言う)、「報告行動」(先生に言う)などの傾向が見られた。
 ・いじめ助長行動
→ 「観衆行動」(おもしろがる、はやしたてる)、「傍観行動」「何もしない」「見て見ぬふり」、「同調行動」(仲間はずれにされている人にかかわらない)などが確認された。
②いじめ加害傾向
 ・具体的ないじめ場面といじめの理由を提示し、自分ならいじめに加わるかどうか4段階で回答。
→ 「制裁型」(こらしめたい、自分たちが何度も困らされた)、「享楽型」(反応が楽しい、すっきりする)、「異質性排除型」(叱られているから、動作が遅いから)
③いじめ否定規範
 具体的ないじめの場面(「みんなで無視する」「人の持ち物に悪意のある落書きをする」について7段階で評価。
→ プログラム実施により改善が見られた。

 

この研究では、いじめのロールプレイよりも、教員がいじめを許さない姿勢を持ち、それを生徒に言葉で伝えることが大切ということが分かったそうです。

授業一回ではあまり効果がないのではないかと思いましたが、少なくとも実施直後には生徒たちの意識の変化が見られたようです。

できれば、数か月後、数年後と調査を続けてみて、一回の実施だけで十分なのか、定期的な実施(年一回など)が必要なのか、明らかにできたら良かったようにも思います。

書籍レビュー『ちゃんと泣ける子に育てよう』

発達に課題があってもなくても、子どもは癇癪を起して暴れまわったり、泣きわめいたりするものです。親にとっては本当に大変な時間ですよね。

特に発達に課題があると、自傷行為や他傷行為を起こしてしまうこともあります。

子どもには感情のコントロールはできません。いや、大人になっても感情のコントロールはなかなか難しいものです。

人は自分の感情はコントロールできなくても、他人には感情をコントロールしてほしいと思ってしまうもの。自分は怒りを爆発させながら、子どもには感情のコントロールを求めて怒鳴りつけてしまう。管理人にもそういう経験が数えきれないほどあります。

『ちゃんと泣ける子に育てよう』の著者、大河原氏は、ネガティブな感情をしっかりと感じさせることが大切だと指摘します。決して否定したり、ポジティブな感情を無理やり押し付けてはいけないと。

子どもは、自分が今感じている激しく突き上がってくる感情が何なのか、説明することができません。何かイヤなこと、到底受け入れがたいことが起こったのは確かなのですが、その状況に対して自分がどんな気持ちを持っているのか、「悲しい」のか、「寂しい」のか、「悔しい」のか、「怖い」のか、言葉で説明することはできません。

ですので、まず大切なのは、今感じている感情に名前があることを、大人が落ち着いて教えてあげることなんです。「あら、悔しいんだね。悔しくて涙が出たね」などと、子どもが感じている感情を大人が代弁してあげることを繰り返すと、子どもは次第に「悔しい」という感情を学んでいきます。そしていずれは泣きわめくのではなく、「そういうことがあると(自分は)悔しい」と言葉で表現できるようになるのです。

子どもがネガティブな感情を全身全霊で感じることを拒否し続けると、本当は悲しかったり悔しかったりするのに、子どもは「それを表に出すことは悪いことだ」と学習してしまい、本当の気持ちを押し殺すようになってしまいます。

ですが、ネガティブな感情は非常にエネルギーが強いもの。押し殺したからといって消えてなくなることはありません。次第に積み重なっていき、思いもよらぬところで爆発してしまうのです。

普段とても穏やかな人が突然キレたり、明るく感じがよく見える人が凶悪犯罪を犯したりするのは、ネガティブな感情の存在を否定し、適切に処理されないまま、心の中でくすぶっていった結果と考えられているようです。

子どもがパニックを起こしてしまうと、親はどうしても周りに気を遣い、居たたまれない気持ちになってしまいます。とても苦しい時間ですよね。でも、「今は感情を適切に言語化できるようになるための学習時間」と考えると、少しは楽になれるかもしれません。

感情をコントロールできない子どもに悩む親の気持ちを楽にしてくれる本です。ぜひ手に取って読んでみてください。

大河原 美以(2006)『ちゃんと泣ける子に育てよう